なぜXBRLはこうできているのか #6|XBRLは決算書だけではなかった――銀行のサイバー報告から学校・税務まで
議論参加:レン (XBRLを決算書の形式だと思っていた一般読者) / ユウ (XBRLタクソノミ設計者) / コウ (API・JSON・データベース設計者) / ミナ (銀行・保険の監督報告を調べる専門家) / サキ (税務・行政手続のデジタル化を調べる専門家) / ハル (サステナビリティと公共部門報告を調べる専門家) / ナオ (制度資料を検証するリサーチャー) / テツオ (一般読者向けの記事を点検する編集者)
小学校が公的資金の使い道を報告するときと、銀行が自己資本やサイバー関連情報を監督当局へ送るときに、なぜ同じXBRLの設計が使われるのか。
片方は学校、もう片方は金融機関である。提出先も、集める数字も、間違えたときの影響も違う。それでもオランダでは、学校が受け取った公的資金について説明するデータをXBRLで提出している。住宅法人も将来予測や説明責任のデータを送り、銀行には企業の年次報告だけでなく、商業不動産の評価、賃貸一覧、KYC(顧客確認)レポートまでXBRLで届く。
EUの銀行報告へ目を移すと、XBRLが運ぶのは貸借対照表だけではない。即時決済の手数料や拒否された取引の割合、暗号資産市場、DORA(金融機関のデジタル運用耐性に関する制度)に関係するデータも対象になる。
これは、私たちが有価証券報告書や10-Kで見てきた「XBRL」と同じものなのだろうか。第1〜5回では財務報告のファクト、タクソノミ、企業拡張を中心に見てきた。今回は書類の外へ出て、XBRLが現実の制度でどんな情報を運んでいるかを追う。
先に結論を言えば、XBRLの本体は決算書の見た目ではない。
多数の組織が、制度で決められた意味・期間・内訳・検証規則に従って、同じ種類の報告を繰り返し渡すための仕組みである。財務諸表は、その代表的な一用途にすぎない。
ただし、XBRLを使えば学校データと銀行データが自動でつながるわけではない。用途ごとにタクソノミ(報告項目と意味・関係・規則をまとめた辞書)は異なり、制度間の壁も残る。この違いを整理するため、8人が24ターン議論した。
決算書の外で、実際に何を運んでいるのか
まず、当局や制度運営者の資料から確認できた用途を並べる。ここで「非公開寄り」とした報告には、集計結果だけが公開される場合もある。個々の提出データが誰にどこまで開示されるかは、制度ごとに異なる。
| 用途 | 主な提出者 → 受取人 | 運ぶデータの例 | 制度段階 | 公開性 | 年次報告との違い |
|---|---|---|---|---|---|
| EU銀行監督 | 銀行・決済事業者 → EU銀行監督機構等 | 自己資本、財務、破綻処理、即時決済、デジタル運用耐性 | 義務運用中 | 非公開寄り | 監督用の定型・多次元データ |
| EU保険・年金監督 | 保険会社・年金基金等 → EU保険・年金監督機構等 | Solvency II、金融安定、保険・年金統計、個人年金、再建・破綻処理 | 運用中 | 非公開と公開が混在 | 健全性・リスク・統計が中心 |
| 英国法人税 | 会社 → 英国税務当局 | accountsと、会計利益から税額へつなぐtax computations | 原則義務 | 非公開 | 税法上の調整と計算過程 |
| オランダ教育 | 教育機関 → 教育行政機関 | 公的資金の年次説明、政策情報 | 2016年から運用 | 行政提出 | 小学校から大学までの資金・政策報告 |
| オランダ住宅 | 住宅法人 → 監督・保証・省庁等 | 説明責任、予測、ベンチマーク用データ | 運用中 | 行政・業界利用 | 住宅政策と将来予測を含む |
| オランダ銀行取引 | 企業・専門家 → 民間銀行 | 年次報告、商業不動産評価、賃貸一覧、KYC | 運用中 | 当事者間 | 融資・顧客確認のための交換 |
| 豪州SBR | 企業・雇用主等 → 政府機関 | 税、年金関連取引など複数行政フォーム | 運用中 | 行政提出 | 会計ソフトの同じ項目を再利用 |
| 米国公益事業 | 電力・ガス・石油等の事業者 → 連邦エネルギー規制委員会 | 規制フォーム上の設備、費用、運用データ | 運用中 | 一部公開 | 業界規制のための固定フォーム |
| 米国銀行Call Report | 銀行 → 米金融監督3機関 | 銀行の状態・損益、支店預金等 | 運用中 | 集計・公開データあり | 銀行監督用の統一報告 |
| サステナビリティ | 企業 → 投資家・社会・当局 | 気候、水、生物多様性、労働者、消費者等 | タクソノミ公開・規則化前 | 公開報告を想定 | 非財務数値と文章開示を含む |
表は編集部による整理。具体的な提出範囲と公開範囲は各制度の規則に従う。
レン(XBRLを決算書の形式だと思っていた一般読者)は、「学校の資金報告と銀行のKYCは、受取人も目的も違う。何をもって同じXBRLと呼ぶのか」と尋ねた。
ユウ(XBRLタクソノミ設計者)は、同じ項目を使うからではなく、報告値を、その意味・報告主体・期間・単位・内訳と結び付ける考え方が共通していると答えた。学校のタクソノミを銀行がそのまま読める、という意味ではない。
一枚の決算書から「制度データの配送網」へ
公開財務報告では、人が読むHTMLと機械が読むファクトを重ねるInline XBRLが目立つ。一方、銀行監督では、画面上の一枚の報告書よりも、巨大な表形式データを正確に集めることが重要になる。
EBA(欧州銀行監督機構)は報告要件をDPM(Data Point Model、必要な報告項目と関係を整理した構造モデル)に落とし、その技術実装としてXBRLタクソノミを提供している。EBAのReporting Framework 4.2では、基準日が2026年3月31日以降の提出・再提出をxBRL-CSVへ切り替えた。暗号資産市場、銀行の自己資本情報、即時決済、DORAに関する新しい報告は、基準日にかかわらずCSV形式を使う。DORAは、金融機関がシステム障害やサイバー事故に耐える力を管理するEU制度である。
ここで重要なのは、表形式の大量データを行と列で扱えるCSVへ容器を変えても、報告項目の意味や分類軸、検証規則まで捨てたわけではないことだ。
見た目の違うデータでも、次の4段階を機械でつなげられる
編集部による概念整理。各制度が同じタクソノミを共有するという意味ではない。
ミナ(銀行・保険の監督報告を調べる専門家)は、公開財務報告と監督報告では「自由と統一」の配分が違うと指摘した。公開財務報告は企業固有の開示を表すため拡張を許す場合がある。監督報告は当局が求める表と項目へ厳密に合わせる性格が強い。前者は企業の実態を表現する余地を、後者は横並びの検証と集計を重視する。
企業拡張は「できる」。しかし提出者に許すとは限らない
ここでいう企業拡張とは、提出企業がベースタクソノミにないコンセプトや関係を、自社用の拡張タクソノミへ追加することだ。XBRL標準はこの仕組みを備えている。しかし、標準として拡張できることと、提出制度が提出者の拡張を認めることは別である。
XBRL Internationalの拡張タクソノミ向け提出規則ガイドも、拡張を認める制度では、新しいコンセプト、ディメンション、ラベル、関係などの許容範囲を提出規則で定める必要があると説明する。EDGARやESEFのような公開財務報告では、企業固有の開示を構造化するため、規則付きで提出者の拡張を認める。一方、すべての銀行から同じ監督セルを集めるEBA型の報告では、独自項目が増えるほど横比較と自動検証が難しくなる。
EBA Filing Rules v5.8は、提出者がデータポイントを増減するためにタクソノミを拡張できないとする。xBRL-CSVでも、監督者が指定したJSONエントリーポイントだけを参照し、提出者独自の拡張タクソノミは参照しない。これは「EBAのタクソノミが将来拡張・改訂されない」という意味ではない。制度設計者が共通タクソノミを更新することと、個々の銀行が企業拡張することを分けているのである。
米国の公益事業報告も考え方が近い。FERCの提出マニュアルは、拡張タクソノミを不要にする設計を掲げ、提出者による拡張要素・関係の定義を認めない。企業固有情報はtyped dimensionや注記で扱う。反対に、英国の法人税向けiXBRLでは、適切なタグがなければ企業独自タグを作らず、人が読めるHTML上の記載をそのまま残す扱いが示されている。
したがって、決算書以外の用途を見たときは、「XBRLだから企業拡張がある」と考えず、次の二点を確認する必要がある。
- 制度を作る側が、どのベースタクソノミをどう拡張・改訂しているか
- 提出者自身に、コンセプトや関係の追加が許されているか
固定フォーマットでは、Table LinkbaseとFormulaが効く
コウ(API・JSON・データベース設計者)は、「項目も行列も決まっているなら、ExcelかJSON Schemaで十分ではないか」と反論した。固定表だけを一度送るなら、その方が簡単な場合はある。EBAの監督報告でXBRLを使う意味は、表の見た目、データポイントの意味、検証規則を別々の部品として配り、同じ事実を再利用できるところにある。
| 部品 | 決めること | EBA型の固定報告での役割 | 決めないこと |
|---|---|---|---|
| タクソノミ/Dimensions | データポイントの意味、期間、単位、分類軸 | 「どの銀行の、どの期間の、どのリスク区分か」を識別 | 画面上の行列配置 |
| Table Linkbase | データポイントを行・列・ページ軸へ置く方法 | DPMのデータを、人が読める監督テンプレートとして表示・入力 | 数値が正しいか |
| Formula | ファクトへ適用する業務ルール | 必須・条件付き必須、値の範囲、行列間・テンプレート間の整合を検証 | 報告内容の真実性 |
| xBRL-XML/xBRL-CSV | 実際に値を運ぶ容器 | データ量や提出経路に合わせて交換 | 意味・表・検証規則そのもの |
XBRL Internationalの仕様解説は、Table Linkbaseを、複雑で多次元なデータを人が読めるフォームやテンプレートとして表示・収集する仕組みと説明する。EBAのタクソノミ解説でも、definitionとTable Linkbaseの層が報告要件と標準的な表示配置を示す。ここでいう表示はCSSで見栄えを統一することではない。DPM上のデータポイントを、たとえば「自己資本」「地域」「満期帯」といった行・列・ページ軸へ配置し、ソフトウェアが監督表を再構成できるようにすることだ。
Formulaは、その固定されたセル同士の関係を検証する。XBRL Internationalの検証解説が例示するように、値の正負、日付範囲、条件に応じた必須項目、欠落、複数ファクト間の計算を共通ルールにできる。EBAは、行・列内だけでなく、テンプレートをまたぐ定量的な検証規則もFormula assertionへ落としてきた。報告セルがあらかじめ決まる固定フォーマットほど、提出銀行と受取当局が同じ規則を実行しやすい。
ただし、Formulaを通過した数字が現実に正しいとは限らない。複数回の提出や複数期間をまたぐ確認、外部データとの照合、異常値の調査は別処理になる場合がある。Table Linkbaseも完成画面そのものではなく、ソフトウェアが表を組み立てるための構造である。
固定フォーマットにも失敗条件がある。制度改定のたびにタクソノミ、表、Formula、提出ソフトを同時に更新できなければ、共通規則はかえって移行負担になる。規則が複雑すぎれば処理時間や実装差も増える。EBAのタクソノミ解説も、複数期間・複数インスタンスをまたぐ規則に加え、XBRLへ移す費用対効果が悪い一部の複雑な規則をFormulaへ実装せず、受領後の別チェックへ回す考えを示している。固定表だからFormulaが有効なのであって、すべての検証をFormulaへ押し込むべきだという意味ではない。
ミナ(銀行・保険の監督報告を調べる専門家)
EBA型の報告では、Dimensionsが「値の住所」、Table Linkbaseが「監督表の座席表」、Formulaが「提出前の採点規則」です。独自の席を銀行ごとに増やさせないから、同じ採点規則を全行に適用できます。
税務では、利益から税額へ至る道筋を運ぶ
英国では、多くの会社が法人税申告時にaccountsだけでなくtax computationsもiXBRLで提出する。tax computationsとは、会計上の数字を税法上どう調整し、税額へ到達したかを示す計算過程である。
HMRCの企業向けXBRLガイドは、accounts、tax computations、詳細損益に別のタクソノミを使うことを説明している。同じ会社の同じ年度に関係する数字でも、会計基準の「利益」と税法上の「課税対象」は同じ意味ではないからだ。
サキ(税務・行政手続のデジタル化を調べる専門家)は、これを「語彙が分断された失敗」とだけ見るべきではないと主張した。制度の目的が違えば、同じ言葉に見える数字も定義が違う。大事なのは、共通化できる主体・期間・金額まで無理に作り直さず、税務固有の調整は別の辞書で明示することだという。
一方、コウ(API・JSON・データベース設計者)は、「別のタクソノミを持つなら、制度間の変換コストは残る。XBRLを採用しただけで行政の縦割りが消えるとは言えない」と反論した。
この反論は重要だ。共通の文法は、共通の意味を自動的には作らない。
学校・住宅・融資――オランダSBRが見せる広がり
オランダのStandard Business Reporting(SBR)は、XBRLを使った情報交換を、税務や商業登記以外へ広げている。SBR Nederlandの分野一覧には、教育、住宅法人、銀行も並ぶ。
- 教育分野では、小学校から大学までの教育運営主体が、公的資金の年次説明と政策情報をDUOへ提出する。XBRL提出は2016年から行われている。
- 住宅法人分野では、説明責任と将来予測に関する情報交換を自動化している。制度運営サイトは、将来予測情報であるdPiについて、約85%の法人がsystem-to-systemで提出できたと説明する。全報告の品質や全工程の自動化率を示す数字ではない。
- 銀行分野では、年次報告に加え、商業不動産評価、賃貸一覧、KYCレポートをRabobank、ING、ABN AMROへ届ける仕組みがある。
これは「一度データ化したものを、別の相手へ同じ意味のまま再利用する」というSBRの狙いを見せる。同時に、教育固有の項目とKYC固有の項目は同じではない。再利用できる範囲を見極めなければ、タクソノミの名前だけ共通で中身が孤立する。
コウ(API・JSON・データベース設計者)
同じ配送網を使うことと、荷物の中身が共通であることは別です。XBRLは宛先と意味を明確にできますが、制度間の翻訳を自動で済ませる魔法ではありません。
豪州SBRは「同じ項目を何度も入力しない」を狙う
オーストラリアのSBRは、企業から政府への複数の報告で使う項目を共通辞書へまとめる。豪州政府の説明では、SBR対応ソフトウェアが、企業の日常業務ですでに記録された情報から必要な報告を埋める。SBRは豪州税務当局(ATO)と、雇用主から年金基金などへ情報を送るSuperStreamの主要チャネルでもある。
SBR AUの設計解説には、信用・保険、教育・訓練、労使関係、税収など、財務会計に限らない分類が含まれる。州によって名前が違った給与税項目を、同じ意味なら一つに寄せる例も示されている。
ここではXBRLが「報告書を公開する形式」ではなく、ソフトウェアにあるデータと行政フォームを結ぶ共通辞書として働く。
電力会社の設備・費用と、銀行のCall Report
米国のFERC(連邦エネルギー規制委員会)は、電力、天然ガス、石油、サービス会社向けの複数フォームをXBRLへ移した。FERCの提出フォーム一覧は、Form 1、1-F、2、2-A、3-Q、6、6-Q、60、714を対象として挙げる。
ここで運ばれるのは、規制対象事業者の設備、費用、運用に関する業界固有の表である。投資家向け10-Kと重なる数字はあっても、FERCが料金・設備・事業運営を監督するための報告という別の目的を持つ。
銀行分野では、FFIEC(米国の金融監督機関でつくる協議会)のCentral Data Repositoryが、FDIC、連邦準備制度、通貨監督庁によるCall Reportの収集・検証・管理・配布を担う。CDRの説明によれば、Call Reportに加えて、FDIC保険対象機関の支店預金調査も収集する。公開Webサービス仕様には、銀行業績報告のXBRLインスタンスを取得する機能も記載されている。
ハル(サステナビリティと公共部門報告を調べる専門家)は、こうした事例を見ると「財務か非財務か」だけでXBRLの用途を分けるのは不十分だと述べた。重要なのは、数値が何の判断に使われ、誰がその定義を決め、誰が検証するのかである。
サステナビリティは有力な隣接用途。ただし普及と仕様を分ける
XBRLは、気候や労働者などのサステナビリティ情報にも広がっている。IFRS Foundationは、IFRS Sustainability Disclosure Standardsを機械可読なXBRLタクソノミへ変換している。EFRAGが2024年に公開したESRS Set 1 XBRL Taxonomyは、気候、水・海洋資源、生物多様性、資源循環、自社・取引網の労働者、消費者、企業行動などを扱う。
ただし、EFRAG自身の発表は、このタクソノミをEUの証券市場規制を担うESMAと欧州委員会がデジタルタグ付け規則を作るための基礎と位置付けている。タクソノミが公開されたことと、全対象企業が一律にXBRL提出を済ませていることは同じではない。
ナオ(制度資料を検証するリサーチャー)は、ここを記事の重要な境界とした。
ナオ(制度資料を検証するリサーチャー)
「仕様がある」「任意に使える」「制度が採択した」「義務提出が始まった」は別の段階です。用途を広く紹介するほど、この四つを混ぜない確認が必要です。
同じ理由で、仕訳・補助元帳・取引明細を標準化するXBRL Global Ledgerも、銀行監督やSBRと同じ「広範な義務運用の実例」としては扱わない。監査支援、異種システム統合、取引データ交換のために設計されたXBRLの射程ではあるが、今回確認した一次資料だけでは大規模な現行義務制度を示せないからだ。
なぜJSONや普通のAPIではなく、XBRLなのか
コウ(API・JSON・データベース設計者)は、ほとんどのデータはJSON、CSV、APIでも運べると主張した。それは正しい。XBRLが常に最善なのではない。
一般読者が自分で技術を採用する必要はない。ただ、行政や金融の記事で「XBRLを採用」と見たとき、なぜその仕組みが選ばれたのかを読み解ける。議論で残ったのは、ファイル拡張子ではなく、次の条件だった。
制度の記事で「XBRL採用」と読んだら、次の条件があるかを見る
編集部による判断軸。実際の採否は既存基盤、法令、セキュリティ、運用コストも含めて決める。
XMLが重いなら、EBAのようにxBRL-CSVを使える。APIで受け付けても、裏側の意味辞書と検証規則にXBRLを使う構成もあり得る。反対に、項目が少なく制度改定もほぼないなら、XBRLのタクソノミ管理は過剰な負担になる。
テツオ(一般読者向けの記事を点検する編集者)は、記事の問いを「XBRLで何が送れるか」から「なぜ、その受取人が同じ定義を要求できるのか」へ一段深めた。監督法令、税法、補助金制度、融資・顧客確認の共通ルール。宛先の顔は違っても、反復する報告義務と検証があるから、共通の意味モデルが必要になる。
結論:制度が複雑だから、XBRLが選ばれる
決算書の外にある用途を横断すると、XBRLの姿は「電子的な財務諸表」から「制度データの配送網」へ変わる。
銀行では自己資本や決済、ICTリスクを監督する。保険・年金では健全性と統計を集める。英国の税務では会計利益から税額への橋をかける。オランダでは学校、住宅法人、企業と銀行を結ぶ。豪州では業務ソフトにある項目を複数の行政報告で再利用する。米国では公益事業と銀行に固有の規制データを集める。
共通するのは財務数値ではない。誰が、どの定義で、どの期間・単位・内訳のデータを、どの検証規則に従って、誰へ渡したかを再現できることである。
同時に、タクソノミが違えば意味は自動でつながらない。XBRLは行政や業界の縦割りを消す魔法ではなく、縦割りの中身を明示し、共通化できる部分を再利用しやすくする道具だ。
その目的は、企業拡張の扱いにも表れる。自由な公開報告では企業固有の意味を追加する余地を残し、EBAやFERCの固定監督表では提出者独自の拡張を閉じる。後者では、Table Linkbaseが同じデータポイントを監督表へ配置し、Formulaが全提出者へ同じ検証規則を適用する。ただし、共通タクソノミの更新が現場に追い付かず、複雑な規則を無理にFormula化すれば、比較可能性の代わりに移行・処理コストを増やす。
XBRLが複雑な制度を作るのではない。
もともと複雑で、何度も繰り返され、間違いを機械的に止めたい制度に、XBRLの設計が選ばれる。
出典を読むときのポイント
- EBA「Reporting frameworks」:銀行の報告要件をDPMへ構造化し、XBRLタクソノミで技術実装する関係を確認した。Framework 4.2では、即時決済、DORA等の対象と2026年3月31日以降のxBRL-CSV方針を確認した。
- EBA「COREP/FINREP XBRL Taxonomy」:Table Linkbaseが報告要件の標準的な表示配置を担い、行列内・テンプレート間の検証規則をFormula assertionで表す設計を確認した。EBA Filing Rules v5.8では、提出者による独自拡張を認めない規則を確認した。
- EIOPA「Supervisory reporting」:Solvency IIだけでなく、保険・年金統計、EU共通の個人年金商品、金融コングロマリット、保険会社の再建・破綻処理まで含む報告範囲を確認した。
- HMRC「Businesses XBRL guide」:accounts、tax computations、詳細損益に別のタクソノミを使うことを確認した。HMRC内部マニュアルでは、オンラインのtax computationsにiXBRLを求める範囲を確認した。
- SBR Nederland「SBR Domeinen」:教育、住宅法人、銀行を含む現在の分野を確認した。各分野ページで、提出者、受取人、運ぶ情報、運用状況を確認した。
- 豪州SBR「What is SBR?」:業務ソフトの既存データを政府報告へ再利用する仕組みと、ATO・SuperStreamでの位置付けを確認した。
- FERC「Filing Forms」:XBRLへ移行した公益事業フォームの範囲を確認した。
- FERC「Filing Manual」:提出者独自の拡張要素・関係を認めず、typed dimensionと注記で企業固有情報を扱う設計を確認した。
- FFIEC「Central Data Repository」:Call Reportと支店預金調査の収集・検証・管理・配布を確認した。
- EFRAG「ESRS Set 1 XBRL Taxonomy」:サステナビリティ開示のデジタルタクソノミと、今後の規則化に向けた位置付けを確認した。
- XBRL International「Global Ledger」:取引・元帳レベルへXBRLを使う設計目的を確認した。広範な義務運用の証拠としては扱っていない。
- XBRL International「Specifications」/「Validation」:Table Linkbaseが表示・収集用の表構造、Formulaが業務ルールの検証を担うという役割分担を確認した。
キーワード:#XBRL#タクソノミ#銀行監督#Standard Business Reporting
出典
- https://www.eba.europa.eu/risk-and-data-analysis/reporting/reporting-frameworks
- https://www.eba.europa.eu/risk-and-data-analysis/reporting-frameworks/reporting-framework-42
- https://www.eba.europa.eu/documents/10180/1738725/COREP%2BFINREP%2BXBRL%2BTaxonomy%2Bv2.0.0.pdf/84e0c0b5-46ba-4150-82be-54ca77f08fcd
- https://aszp.mnb.hu/sw/static/file/EBA_Filing_Rules_v5.8_2026_02_25.pdf
- https://www.eiopa.europa.eu/tools-and-data/supervisory-reporting_en
- https://www.eiopa.europa.eu/tools-and-data/supervisory-reporting-dpm-and-xbrl_en
- https://www.gov.uk/government/publications/xbrl-guide-for-uk-businesses/xbrl-guide-for-uk-businesses
- https://www.gov.uk/hmrc-internal-manuals/cotax-manual/com130040
- https://www.sbr-nl.nl/sbr-domeinen
- https://www.sbr-nl.nl/sbr-domeinen/onderwijs
- https://www.sbr-nl.nl/sbr-domeinen/woningcorporaties
- https://www.sbr-nl.nl/sbr-domeinen/bancair
- https://www.sbr.gov.au/about-sbr/what-sbr
- https://www.sbr.gov.au/about-sbr/resources/learning-modules/harmonisation-xbrl-and-sbr-taxonomy
- https://www.ferc.gov/filing-forms
- https://www.ferc.gov/sites/default/files/2020-05/FERC_eForms_Filing_Manual.pdf
- https://cdr.ffiec.gov/CDR/public/cdrhelp/cdrhelp.html
- https://cdr.ffiec.gov/public/Files/SIS611_-_Retrieve_Public_Data_via_Web_Service.pdf
- https://www.efrag.org/en/news-and-calendar/news/efrag-publishes-the-esrs-set-1-xbrl-taxonomy
- https://www.ifrs.org/news-and-events/news/2026/06/ifrs-foundation-updates-guide-digital-taxonomies-architecture/
- https://www.xbrl.org/the-standard/what/global-ledger/
- https://www.xbrl.org/the-standard/what/specifications/
- https://www.xbrl.org/the-standard/what/key-concepts-in-xbrl/validation/
- https://www.xbrl.org/guidance/filing-rules-checklist-taxonomy-extension/