AIで使うXBRL入門 #6|フォルダを渡すだけで、AIはどこまで有報を読めるか――トヨタの実行記録
議論参加:ナオ (企業開示を検証するリサーチャー) / ミユ (AI活用を試すデータ編集者) / レン (初学者の視点で確認する読者)
「AIに有報を読ませる」と言っても、返ってくるのが感想文だけでは役に立たない。欲しいのは、どの会社の、どの年度の、どの数字を、どの原文で確認すればよいかという調査メモだ。
そこで今回は、手元に保管していたトヨタ自動車の2025年3月期有価証券報告書のXBRLフォルダを、AIに読み取り専用で渡した。AIへ許可したのはフォルダ内の検索だけ。外部サイトへのアクセス、EDINETからのダウンロード、ファイルの変更はさせていない。
結果は、提出者名、EDINETコード、対象年度、連結損益計算書の比較数値2件、そして人が開くべき原文3か所まで、一回の依頼でまとまった。人間がゼロから探す代わりに、最後の照合だけを行う形だ。
結論:AIは「答え」を承認する人ではなく、原文へ戻れる調査メモを作る人として使う。 フォルダを渡す前後に人が5点だけ確認すれば、初心者でもAIの出力を比較・検証の入口にできる。
今回、AIに渡したもの
この実行は、すでに手元にあった1社・1年分のZIPを解凍したフォルダを対象にした。これは2025年3月期の練習用データであり、最新の有報ではない。 最新書類で同じことをしたい場合も、EDINETの通常画面で人が対象の書類を一つ保存してから、その解凍フォルダを渡す。AIにEDINETを巡回させる必要はない。
| 入力 | 今回の内容 | 読者が自分で替える部分 |
|---|---|---|
| 対象 | トヨタ自動車の2025年3月期有価証券報告書 | 自分が調べたい会社の手動取得済みXBRLフォルダ |
| AIの権限 | 読み取り専用 | 同じ。書き込み・ダウンロードは不要 |
| 最初に見るファイル | manifest_PublicDoc.xml とヘッダー文書 | 同じ。ファイル名を覚える必要はない |
| 依頼する成果物 | 数字2件と、原文3か所の調査メモ | 売上、利益、CFなど、知りたい項目へ替える |
人が行うのは「1書類を渡す」と「5点を照合する」ことだけ
ZIPを解凍
表→業績説明を探索
承認/修正/保留
実際に送った依頼
以下のように、解凍フォルダのパスと成果物を指定した。CLIなら作業フォルダでこの文章を送る。デスクトップアプリなら、そのフォルダを開いた状態で同じ文章をチャットに貼るだけでよい。
ローカルにあるトヨタ自動車の有価証券報告書XBRL一式を、読み取りだけで調べてください。
外部サイトへのアクセス、ダウンロード、ファイルの作成・変更・削除はしないでください。
対象フォルダ: (ここに、手動取得して解凍したXBRLフォルダ)
最初に manifest_PublicDoc.xml とヘッダー文書で、提出者名、EDINETコード、対象年度を確認してください。
次に連結損益計算書の営業収益と営業利益を前年・当年の比較列から探してください。
最後に、この二つの数字と関連する文章を確認するため、人間が開くべき文書名・表題または見出しを最大3か所示してください。
Markdown表で、項目、前年、当年、単位、連結/単体、原文の場所、確信度を出してください。
原因の断定、投資判断、株価予想はしないでください。
ポイントは、AIに「利益が減った理由を教えて」とだけ聞かないことだ。先に会社・年度・範囲を特定し、数字と原文の場所を表で返すよう頼む。これなら、答えが流暢でも検証場所が消えない。
実行結果:AIが一回で返した調査メモ
AIはマニフェストから文書群をたどり、ヘッダーで対象を確認した上で、連結損益計算書を見つけた。返答は次の通りだった。金額は表に記載された百万円単位である。
| 項目 | 前年 | 当年 | 単位 | 範囲 | AIが示した原文の場所 | 確信度 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 営業収益合計 | 45,095,325 | 48,036,704 | 百万円 | 連結 | 0105020_honbun…ixbrl.htm → 「連結損益計算書」→「営業収益合計」 | 高 |
| 営業利益 | 5,352,934 | 4,795,586 | 百万円 | 連結 | 同文書 → 「連結損益計算書」→「営業利益」 | 高 |
この表だけで「なぜ利益が減ったか」は分からない。しかし、次に開くべき場所が二つに絞れる。売上は増えているのに営業利益は減った、という差を出発点にして、業績説明の文章を読むという順序になる。
AIが最後に提示した、人が開くべき場所は次の3か所だった。
| 開く順番 | 文書と見出し | ここで分かること |
|---|---|---|
| 1 | 0000000_header…ixbrl.htm の「提出書類」「事業年度」「会社名」と EDINETCodeDEI | トヨタ自動車、E02144、2025年3月期の書類であること |
| 2 | 0105020_honbun…ixbrl.htm の「連結損益計算書」 | 上の二つの数字が、前年・当年を並べた連結の百万円表であること |
| 3 | 0102011_honbun…ixbrl.htm の「経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容」→「業績―当連結会計年度と前連結会計年度の比較」 | 数字の変化を読むために戻る業績説明の入口 |
ここまでがAIの仕事。 数字の変化と文章を、もっともらしい一文にまとめるのではなく、「次に開く三つの原文」に変換する。
人間が見るのは、この5点だけ
レン(初学者の視点で確認する読者)は、「確認項目が多ければ、結局使われない」と懸念した。そこでナオ(企業開示を検証するリサーチャー)は、承認のための確認を五つに固定した。今回なら、2〜3分でできる。
| 確認する点 | 今回の確認例 | 一致しなければ |
|---|---|---|
| 提出者 | ヘッダーの会社名がトヨタ自動車株式会社 | その出力全体を保留する |
| 対象年度 | 2025年3月期。最新と誤認していないか | 「最新」の記述を消し、必要なら別の書類でやり直す |
| 連結/単体 | 表題が「連結損益計算書」か | 同じ範囲の数字をAIに探し直させる |
| 単位 | 表の「単位:百万円」か | 桁を換算せず、元表へ戻る |
| 原文の場所 | AIが示した文書・見出しを実際に開けるか | その行を「未確認」として使わない |
ミユ(AI活用を試すデータ編集者)は、AIの出力をそのまま採用するより、この五点を「承認ボタン」だと考える方が続けやすいと述べた。正しい数字でも、単体と連結を混ぜたり、古い年度を最新だと思い込んだりすれば、比較は崩れるからだ。
次は、自分の1社で同じことをする
第4回・第5回では、最新のトヨタ有報を材料に、数字と文章を比較する考え方を扱った。今回は、その前段にある「AIへフォルダを渡し、原文へ戻れるメモを作らせる」操作を実演した。
自分で試すときは、依頼文の「営業収益」「営業利益」だけを、知りたい問いに替えればよい。例えば、次のように限定する。
連結キャッシュ・フロー計算書から、営業活動によるキャッシュ・フローを前年・当年で示してください。
差がある場合、業績説明または注記で人間が確認すべき原文を最大3か所示してください。
原因は断定せず、事実・仮説・未確認を分けてください。
AIが出すのは候補と地図、人が出すのは承認だ。この分担なら、会計やファイル名に詳しくなくても、AIに調査の最初の重い作業を任せられる。
出典を読むときのポイント
- EDINET「トヨタ自動車 第122期有価証券報告書」:最新書類を人が通常の画面で選び、今回と同じ手順でローカルへ保存する入口。
- 同書類のPDF原本:最新の数字・文章を人が原文照合するための公開原本。この記事の実行結果は、手元に保管していた2025年3月期の練習データによるものである。
- EDINET「書類閲覧」案内:人が対象の1書類を検索・閲覧する入口。AIによる自動取得を前提にしない。
- XBRL International「What is XBRL?」:XBRLが数字と文章を機械処理・比較しやすくする報告用の標準であることを確認した。
- OpenAI「Codex Manual」:CLIとデスクトップアプリで、対象フォルダと作業上の制約を明示して依頼する方法を確認した。
特定の投資判断を勧めるものではありません。
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