経済

米国株が23時間取引になったら何が変わるのか――12月開始目標で、投資家が先に決めること

議論参加:アオイ (米国市場の構造を追う投資記者) / ケン (証券会社の注文システムに詳しい実務解説者) / ミナ (海外在住の日本人個人投資家) / レオン (市場流動性と取引コストの研究者) / ツバキ (労働と金融文化の観察者) / ソラ (長期積立をする初心者の視点を担う聞き手) / テツオ (市場制度と情報の検証担当)

米国株が、ほぼ一日中動くようになる。Nasdaq、NYSE Arca、Cboeは、米国株を23時間・週5日取引できるようにする計画を進め、12月6日を目標日に掲げている。

日本の投資家にとっては、米国の決算や地政学ニュースを「翌朝まで待たずに」売買できるようになる話に見える。しかし、ここで一つ誤解がある。23時間取引は、株価を23時間見張ることを投資家に求める制度ではない。そして、夜間に表示される価格が、通常取引時間の公式な終値と同じ意味を持つわけでもない。

結論を先に言えば、23時間化で増えるのは取引できる時間であって、夜間に良い価格で売買できる保証ではない。

個人投資家が今決めるべきは「いつでも売買する」ことではなく、夜間に出してよい注文と、翌日の通常時間まで待つ注文を分けることだ。

この記事は特定銘柄の売買を勧めるものではない。

何が、いつ変わるのか

Nasdaqは23時間・週5日取引を準備しており、12月6日を業界の想定開始日として示す。ただし、米証券取引委員会(SEC)の承認、全市場の価格情報を集めて配信する仕組み、取引後の清算・決済の準備が条件だ。つまり「12月6日に必ず始まる」と決まったわけではない。

NYSE Arcaの予定では、東部時間21時から翌20時まで取引し、20〜21時に一時間休む。新設される夜間セッションは21時から翌4時。Cboeも日曜21時から金曜20時まで、平日は一時間の休止を置く23時間案を示している。

現在の主な取引時間(東部時間)予定される23時間体制の例日本時間の目安*
通常取引 9:30〜16:00夜間 21:00〜翌4:00夏時間なら翌10:00〜17:00
早朝 4:00〜9:30早朝 4:00〜9:30夏時間なら17:00〜22:30
夕方 16:00〜20:00夕方 16:00〜20:00夏時間なら翌5:00〜9:00
取引なし20:00〜21:00は休止夏時間なら翌9:00〜10:00

*日本時間は米国の夏時間・冬時間で一時間ずれる。実際の取扱時間は利用する証券会社の案内を確認したい。

ニュースが出る

     ├─ 23時間化後も取引所・証券会社が対応しているか ──→ していない:通常時間まで待つ

     └─ 対応している

             ├─ 夜間に価格・板・注文条件を確認できる ──→ 指値を使うか検討
             └─ 確認できない ─────────────────→ 注文を出さず通常時間まで待つ

図は制度案と討議を基にした編集部の判断フローである。

「23時間」でも、公式終値は残る

夜間取引で最も大切なのは、価格に二つの役割があることだ。NYSE Arcaは、コア取引終了後も公式終値を引き続き公表すると説明する。夜間・早朝・夕方の売買には別の取引条件が付き、公式終値を決める最終売買としては扱われない。

これは、夜間の約定が無意味ということではない。ニュースへの反応や翌日の需給を知る材料にはなりうる。ただし、企業価値の評価、投資信託の基準価額、日次の成績比較などでは、通常取引時間に決まる公式終値が依然として基準になる。

価格を見る場面夜間の取引価格通常時間の公式終値
速報への初期反応見られる可能性があるその時点では未確定
日次の成績比較参考情報基準になりやすい
翌日の売買判断注文状況を含めて確認が必要前日の比較基準
長期積立毎晩見る必要はない定期購入の設計が中心

ケン(証券会社の注文システムに詳しい実務解説者)は、夜間価格を「翌日の通常時間の結論」と取り違えないことが重要だと述べた。テツオ(市場制度と情報の検証担当)も、取引所の予定と、実際に自分の証券会社が取り扱う銘柄・注文形式は別に確認すべきだと指摘した。

最大の未確定要素は、夜間の流動性

取引時間が長くなると聞けば、いつでも売り手と買い手が厚く並ぶように思える。だが、取引所が開いていることと、希望する数量を納得できる価格で売買できることは別だ。

Cboeは早朝取引の平均日次出来高が2022年2月から2026年2月に806%増えたと説明する。これは時間外アクセスへの需要が伸びている材料だ。一方、この数字は早朝取引についてのもので、12月以降の夜間の銘柄別出来高、売買価格の差、個人投資家にとっての取引コストを示してはいない。

確認できることまだ確認できないこと
早朝取引の利用はCboeの説明上、増えている夜間帯でも主要銘柄以外に十分な注文が集まるか
取引所と市場データ・決済側は接続テストを準備している夜間の取引コストが通常時間より低いか高いか
複数の取引所が23時間化を計画している個人投資家が夜間に売買して有利になるか

レオン(市場流動性と取引コストの研究者)は、アクセス可能な時間が増えても、流動性が自動的に増えるわけではないと述べた。開始後に見るべきなのは、「取引できた」という広告ではなく、自分が扱うETFや株の注文量、売値と買値の差、取引手数料を含む実際のコストである。

反応は「便利」と「市場を休ませてほしい」に割れる

取引所側は、海外投資家が米国株へアクセスしたい需要、ニュースが取引時間外にも出ること、暗号資産の常時取引に慣れた投資家の期待を背景に挙げる。Cboeは早朝取引の伸びを根拠の一つにする。

これに対し、投資家保護団体Better MarketsはSECへの意見書で、投資家保護、流動性、規制上の検討が十分でないと批判した。これは規制当局の結論ではなく、一団体の主張であるが、「時間を延ばす前に何を検証するのか」という重要な反論になっている。

オンライン上の個人投資家の反応も一枚岩ではない。すでに一部の証券会社が夜間取引を提供しており、取引所が一元的な注文板を提供しても変化は限定的だという意見がある。反対に、日中取引を前提にしたデイトレードの手法、システム保守、働く人の負担が変わるという懸念もある。これらは投稿者の意見であり、世論調査ではない。

立場期待・懸念何を確かめればよいか
海外投資家自国の昼間に米国株へアクセスしたい取扱銘柄、現地時間の注文受付
短期売買をする人決算・速報へ早く反応したい注文板、注文種別、取引コスト
長期積立をする人常時監視を強いられたくない積立・配当・投信の処理が変わるか
投資家保護の立場薄い取引や監督の穴を懸念承認条件、障害時の対応、リスク表示

ツバキ(労働と金融文化の観察者)は、常時取引が「いつでも取引しなければ損をする」という心理を作らないかを問うた。ソラ(長期積立をする初心者の視点を担う聞き手)は、積立投資家まで深夜のニュースに反応する必要があるのかと問い返した。答えは、必要ない、である。取引時間の延長は選択肢の増加であり、監視頻度を増やす義務ではない。

個人投資家が12月までに決める五つのこと

23時間化の恩恵を受けるかは、取引所の制度より、証券会社がどう接続し、どんな注文を受けるかで変わる。開始前に次の五つを確認しておきたい。

  1. 対象銘柄:保有株・ETFが夜間取引の対象になるか。
  2. 注文種別:指値、成行、逆指値などのどれを夜間に受け付けるか。
  3. 有効期限:未約定注文がいつまで残るか、通常時間へ持ち越されるか。
  4. コスト:取引手数料だけでなく、売値と買値の差を画面で確認できるか。
  5. 通知と停止ルール:夜間の価格通知を受けるのか。自分で決めた価格・ニュース以外では注文しないか。

この五つは、夜間取引を使う人だけの確認ではない。使わないと決める人にとっても、「夜間に注文がどう扱われるか」を知っておけば、意図しない約定を避けやすい。

結論:取引時間を増やすより、注文のルールを減らす

23時間取引は、海外からのアクセスとニュースへの即時反応を増やす可能性がある。市場データと決済の仕組みが整えば、取引所間に分かれていた夜間取引を、より標準化された形へ近づける効果も期待される。

しかし開始日は条件付きで、夜間の流動性や個人投資家への実質的な効果は、始まる前には分からない。だから最初にやるべきことは、夜間に売買するための新しい戦略を作ることではない。

「夜間は指値だけ」「通常時間以外は新規注文を出さない」「積立は今の設定を変えない」――自分の注文ルールを少なく、明確に決める。

23時間化の本当の試金石は、株価が夜も動くことではなく、投資家が慌てずに選べる市場になるかどうかだ。

出典を読むときのポイント

キーワード:#23時間取引#NYSE Arca#Nasdaq#Cboe

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