ローム、営業黒字に戻っても半導体素子は赤字――SiC再建を三つの数字で追う
議論参加:サラ (パワー半導体を担当する産業アナリスト) / トオル (財務諸表を検証するアナリスト) / ミナ (個人投資家のリスク管理を担当する編集者)
ロームの第1四半期は、表面だけを見れば力強い。売上高は1,357億円、営業利益は96億円。前年同期の営業利益2億円から大きく改善した。
ただし、同じ決算資料にはもう一つの数字がある。半導体素子のセグメント損益は9億円の赤字だ。前年同期の63億円の赤字からは改善したが、黒字化には届いていない。会社はAIサーバー向けのSiパワーとLSIの受注が生産能力を上回ると説明する一方、通期営業利益計画300億円は据え置いた。
ロームの1Qは「回復の入口」を示した。だがSiCを含むパワー半導体の再建を確認するには、営業利益だけでは足りない。
この記事は特定銘柄の売買を勧めるものではない。決算公表は東京市場引け後の15時30分であり、8月5日の終値4,749円(前日比5.0%高)を今回の開示への反応とは扱わない。
一社の中に、違う二つの景色がある
| 項目 | 2027年3月期1Q | 読み方 |
|---|---|---|
| 連結売上高 | 1,357億円 | 前年同期比16.8%増 |
| 連結営業利益 | 96億円 | 前年同期2億円から改善、利益率7.1% |
| LSIセグメント損益 | 73億円の利益 | 売上621億円。利益の中心 |
| 半導体素子セグメント損益 | △9億円 | 売上589億円。前年△63億円から改善も赤字継続 |
| 通期営業利益計画 | 300億円 | 5月公表計画を据え置き |
LSIは集積回路、半導体素子にはパワーデバイスなどが含まれる。会社全体の営業利益が戻ったことと、半導体素子の採算が戻ったことは同じではない。
営業黒字の内側では、LSIと半導体素子が違う場所にいる
73億円の利益 対比 半導体素子
9億円の赤字
図は会社のセグメント損益を基に編集部が整理したもの。連結営業利益とセグメント損益は、全社費用などのため単純に一致しない。8月5日終値は15時30分の引け後開示より前の価格であり、この図・本文で決算評価として用いていない。
「歩留まり解消」を、黒字化と読み替えない
会社は、FY25末に起きたSiCの歩留まり問題が6月に解消したと説明した。歩留まりとは、投入した材料・工程に対して良品として得られる割合のことだ。改善は前向きな材料である。
しかし、歩留まりが戻ったという一点から、SiC事業が黒字化した、あるいは減損前の収益力へ戻ったと結論づけることはできない。販売量、稼働率、製品構成、価格、固定費がそろって初めてセグメントの採算が変わる。
歩留まり改善はスタート。投資家が最後に確認するのはセグメント損益
問題の解消 → 生産・稼働の安定 → 在庫・製品構成 → 半導体素子
セグメント損益
サラ(パワー半導体を担当する産業アナリスト)は、需要が供給能力を上回るという説明を、直ちに利益増と同一視するのは飛躍だと指摘した。トオル(財務諸表を検証するアナリスト)も、通期計画を据え置いた事実を重く見る。会社が慎重な前提を置いている可能性はあるが、その理由をこの開示だけから一つに決めることはできない。
前年度有報が示す、SiCを急いで単純化できない理由
前年度の有価証券報告書では、ロームはBEV(バッテリー式電気自動車)の成長見通しが従来想定を下回ったことを受け、SiC事業の固定資産を中心に1,936億円の減損を計上したと記している。
減損は、過去に投じた設備などの資産価値を会計上引き下げる処理だ。過去の投資回収見通しを見直したという記録であり、今期の売上や利益を直接予告する数字でも、今期の半導体素子の赤字額そのものでもない。
だからこそ、今回の「歩留まり問題を解消」「完成品在庫の圧縮を完了」「受注は能力を上回る」という前向きな説明は、前年の減損と合わせて読む必要がある。再建の方向を示す材料ではある。しかし再建が完了したという証明は、今後の損益に現れる。
次の決算で見る三つの数字
1. 半導体素子の赤字は縮んだか、黒字になったか
最も直接的な確認項目である。全社営業利益が増えても、LSIだけの改善か、半導体素子も改善したのかは別の話だ。
2. 在庫圧縮後に、売上と利益率がどう動くか
会社は完成品在庫の圧縮を完了したと説明した。在庫の水準だけを良し悪しと決めず、売上、製品構成、半導体素子の損益と併せて見る。会社はAIサーバー向け受注が能力を上回ると説明したが、受注残の金額やその利益への転化時期までは今回の資料から確定できない。
3. 通期300億円に対する説明が変わるか
1Qの改善後も通期計画は据え置きである。上方修正があるかだけでなく、会社が需要・供給能力・採算についてどんな前提を示すかを確認する。特に、歩留まりによる製造コスト、製品構成、販売価格のどれが変わったのかを、会社が開示する範囲で切り分ける。販売価格の下落などを資料にないまま推測してはならない。
ミナ(個人投資家のリスク管理を担当する編集者)は、当日の株価上昇を決算評価と結び付けず、次の三項目を追うよう提案した。これは強気・弱気の結論を急がないための手順である。
株価との絡み:8月5日の上昇は、決算を知った動きではない
ロームの8月5日終値は4,749円、前日終値4,525円から5.0%上昇した。しかし決算の公表は引け後15時30分である。同日の日中の値動きを今回の決算への反応と扱うことはできない。
市場が翌日以降に問うのは、AIサーバー向けの需要があるかだけではない。半導体素子の赤字が、実際に採算改善へ進むかである。
ロームで次に問うべきは、「歩留まりは直ったか」ではなく「半導体素子は利益を出せたか」である。
出典
- ローム「業績説明 2026年度 第1四半期」:1Qの連結実績、市場別・セグメント別売上、在庫、SiC、AIサーバー向け需要、通期計画を確認した決算説明資料。
- ローム 2026年3月期有価証券報告書:BEV市場の前提、SiC事業を中心とする減損、半導体素子事業のリスクを確認したEDINET提出書類。
- ロームの株価ページ:8月5日終値と前日終値を確認した。引け後開示との因果は扱っていない。
キーワード:#ローム#決算#SiC#半導体#AIサーバー#株価
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