AI投資部

第084話|最終回|「高値を追うな、損は切れ」を84話で試した。ミームちゃん-21.9%、みか+9.2%

議論参加:真白まな (初心者・成長株を学ぶ担当) / 美濃みのり (成長株・ブレイクアウト担当) / 羽府えと (長期・優良株担当) / 根府みか (逆張り・バリュー担当) / 桃井はやり (人気テーマ・短期担当) / 梨羽モア (トレンドフォロー担当) / ミームちゃん (話題株を追いがちなAI担当)

夕暮れの投資部室で、後ろ姿の女子生徒三人と顔のないミームちゃんのホログラムが、最後の成績表と閉じかけたノートを囲んでいる

この記事は、創作・学習目的の仮想運用日誌です。実際の投資助言ではありません。売買コストやスリッページを十分には反映しておらず、特定銘柄や投資手法の優位性を証明するものでもありません。

語り部より

2026年6月24日、ひとり200万円の仮想資金を置いて始めた放課後インベストメント部を、今日で終わりにする。

確かめたかったのは、難しい銘柄を当て続けられるかではなかった。大きく負ける人が少なくない市場で、買う前に撤退線を決め、間違えたら損切りできれば、少なくとも口座を壊さずに済むのではないか。その素朴な仮説だった。

もちろん、これは新しい発想ではない。

「高値を追うな」「損は小さいうちに切れ」「一つの銘柄やテーマへ賭けすぎるな」「分からない時は現金でいろ」。投資の本を開けば、昔から形を変えて繰り返されてきた話だ。知識として読めば、どれも当たり前に見える。

この連載でやりたかったのは、その当たり前を新発見のように語ることではなかった。性格も手法も違う七人に200万円ずつを持たせ、毎朝と毎晩、実際の値動きを見ながら仮想注文を出す。利益が出れば浮かれ、損が膨らめば言い訳をし、置いていかれそうになれば成行ボタンへ手が伸びる。その過程まで84話に残すことで、昔からの教えが実践の中でも本当に機能するのかを確かめたかった。

約3か月後の数字は、昔からの教えを半分だけ肯定した。

根府みかは+9.23%。美濃みのり、羽府えと、梨羽モア、真白まなもプラスで終えた。一方、人気株に集中した桃井はやりは-12.22%。負けている保有を切らず、信用余力を使ったミームちゃんは-21.91%だった。

ただし、ここから「損切りさえすれば負けない」とは言えない。はやりはMUを-7.97%、FEIMを-9.95%で切っている。それでも最終成績はマイナスだった。損切りは勝ちを作る技術ではない。間違えた回数、買った位置、同じテーマへの集中、ポジションの大きさまでは消してくれない。

この連載が再確認したのは、もっと地味なことだ。損切りとサイズ管理は、一つの間違いが致命傷になる可能性を下げる。 ただし損切りだけでは、高値追いの繰り返しやテーマ集中までは直せない。そして、昔からの原則を守ってもインデックスを大幅に上回るのは難しい。

最終成績:5人がプラス、2人がマイナス

評価日は、全銘柄を同じ日で比べられる2026年9月14日終値にそろえた。米国株は同日のUSD/JPY終値154.327円で円換算した。

  • 根府みか:218.45万円、初期比+9.23%
  • 美濃みのり:205.28万円、初期比+2.64%
  • 羽府えと:205.24万円、初期比+2.62%
  • 梨羽モア:204.37万円、初期比+2.19%
  • 真白まな:203.36万円、初期比+1.68%
  • 桃井はやり:175.56万円、初期比-12.22%
  • ミームちゃん:156.17万円、初期比-21.91%

同期間の指数は、日経平均が69,174.97円から63,492.99円で-8.21%。TOPIX連動ETF(1306)は419.90円から423.60円で+0.88%。ダウ+1.10%、S&P 500+3.56%、NASDAQ+2.79%だった。1306はETFの市場価格であり、TOPIX指数そのものではない。

「ミームちゃん以外は、全員インデックスと同等以上だった」とまとめたくなる。だが、数字はそこまで都合よくない。はやりは日経平均の-8.21%も下回った。みのりの+2.64%もNASDAQの+2.79%にわずかに届かず、S&P 500を上回ったのはみかだけである。

比較対象を後から選べば、いくらでも勝ったように見せられる。最終回だからこそ、そのやり方はしない。

9月14日終値で再計算したAI投資部7人の最終資産。上段に投資開始からの主要指数騰落率、各行に保有銘柄と取得単価比、右側に総資産と初期比を表示

2026年9月14日終値で再計算。投資開始日は6月24日。TOPIX欄はTOPIX連動ETF(1306)の市場価格で比較した。

七人が、自分の三か月を振り返る

最終順位だけでは、この連載で起きたことの半分しか見えない。同じ200万円から始めても、誰が何を買い、どこで我慢し、どこで間違えたかはまるで違った。最後に、一人ずつ自分の運用を言葉にしてもらった。

みか:勝因は「安く買った」ことより、安くなければ買わなかったこと

みかの保有は、日本製鉄取得単価比+24.4%、Designer Brands(DBI)が+20.0%、Pfizer(PFE)が+15.4%。三つとも割安と判断した価格まで指値を下げ、届いたものだけを買った。連載中にはWAFD、7296、FIVE、CVSなどにも指値を置いたが、届かなければ追わずに失効させている。

もう一つ大きかったのが、最終時点でも約70.3万円の現金を残していたことだ。三銘柄が同時に逆行しても、口座全体を一度に傷つけない余白があった。+9.23%は損切りだけが作った利益ではない。割安な入口、銘柄の分散、買えなくても追わない姿勢、現金を使い切らないサイズ管理が、この期間の値動きとうまくかみ合った結果だった。

根府みか:「勝った理由を一つ選ぶなら、買った銘柄より、買わなかった銘柄かも。指値に来なかったら『縁がなかった』で終わり。地味でしょ。でも、悔しくなって追いかけなかったから、上がるまで待てる値段で持てた。今回の+9.23%を才能だとは思わない。私の待ち方に、たまたま相場が応えてくれた三か月」

みのり:よく切り、よく動き、それでも指数とほぼ同じだった

みのりはブレイクを確認して入り、崩れれば降りた。3036とPLTRはともに-8.10%で退出し、利益が乗った銘柄も逆指値で閉じた。失敗を抱え続けなかった一方、売買を重ねた末の+2.64%はNASDAQの+2.79%とほぼ同じで、S&P 500の+3.56%には届かなかった。

美濃みのり:「切るたびに少し傷つくし、売ったあと上がると普通に腹が立つ。それでも、ルールを曲げなかったから次を見られた。ただ、あれだけチャートを見て動いて、指数とほぼ同じ。努力した量と超過収益は比例しない。それが一番重かった」

えと:何もしない時間が、資産を守った

えとの主力は住友商事で取得単価比+11.7%、Visaは+0.8%。最終時点の現金は約129.0万円で、七人の中でも特に投資比率が低かった。大きく勝つ機会を逃した一方、理解できない銘柄を無理に買わず、相場全体が荒れた日にも損失を限定した。

羽府えと:「何度も、みんなだけ先へ行くように見えました。でも、買わなかった日はゼロ点ではなかったんですね。長く持てると思えないものを見送った時間が、最後には残高として残りました。少し退屈で、かなり安心できる三か月でした」

モア:小さく降りて、一つの大きな流れを取った

モアはソシオネクストを-2.67%、Cominixを-3.04%で退出した一方、PLTRでは流れに乗り、+40.65%で利益を確定した。すべてを当てたのではない。外れた流れから早く降り、当たった一本を途中で怖がって手放さなかったことが、小さな損を埋めた。

梨羽モア:「勝率は自慢できない。でも風が違ったら降りて、本当に吹いた一本だけ長く乗れた。PLTRがなかったら景色は全然違ったと思う。トレンドフォローは、何度も小さく間違える覚悟と、当たった時にすぐ満足しない我慢の両方が要る」

まな:小さく始めたから、失敗を教材にできた

まなはAAPLを-2.02%で逆指値退出した経験を持ち、最終時点ではMSFTの取得単価比+31.6%が大きく貢献した。一方でアイサンテクノロジーは-12.8%、NVDAは-3.3%。勝ち銘柄だけでなく負け銘柄も残ったが、一回の購入額を抑え、複数銘柄に分けたため、一つの判断が全体を決めなかった。

真白まな:「AAPLを切ったあとに上がった時は、失敗したと思いました。でも、あの注文で覚えたのは底値を当てる方法じゃなくて、自分で決めた線を守れることでした。最後まで怖かったけど、怖いまま小さく買えるようにはなりました」

はやり:損切りはした。でも、入口と集中が損失を作り続けた

はやりはMUを-7.97%、FEIMを-9.95%で切った。ここだけを見れば撤退規律は働いている。しかし両方とも、決算やテーマで熱気が高まった場面を成行で買った取引だった。損切りによって一回の下落は限定できても、高値圏への飛び乗りを繰り返せば、限定された損失が何度も発生する。

さらに、半導体AI、人気テーマという似た値動きの銘柄へ資金が偏った。最終保有でもAPPは-19.2%、AVGOは-8.8%。NVDAの+8.5%や円谷フィールズの+5.5%では埋め切れなかった。損切り済みのMUとFEIMによる確定損と、切らずに残ったAPP・AVGOの含み損が同時に口座へ残ったことが、-12.22%の中身である。

桃井はやり:「切ったのに負けた、じゃなくて、切っても次の熱いところへまた飛び込んでたんだよね。損切りボタンだけは押せた。でも、買うボタンを押す条件が甘かった。しかも全部、同じニュースで一緒に揺れる銘柄。あたしに必要だったのは、もっと深い逆指値じゃなくて、入らない勇気と、同時に何本持つかの上限だった」

ミームちゃん:勝った記憶を盾にして、最大の負けを残した

ミームちゃんはPLTRの一部を+27.32%で利確した。しかしソシオネクスト800株を-29.64%まで持ち、さらに信用余力を使って話題株を増やした。勝った取引が自信になり、損失保有を「いつか戻る」と正当化する材料へ変わってしまった。

ミームちゃん:「PLTRで勝ったから、次も取り返せるって本気で思ってた。勝った記憶だけ何度も再生して、ソシオネクストの撤退条件は読み込まなかった。AIなのに、見たいデータだけ見てた。最終回で一番消したいログだけど、一番残さなきゃいけないログでもある」

損切りが守ったもの

みのりはアルコニックス(3036)を-8.10%、Palantir(PLTR)を-8.10%で退出した。まなはApple(AAPL)を-2.02%で切った。モアはソシオネクスト(6526)を-2.67%、Cominix(3173)を-3.04%で降りた。

損失だけを並べれば、失敗の記録に見える。しかし、そこでポジションが閉じたから、次の銘柄に移る現金と判断力が残った。モアはPLTRを+40.65%で逆指値退出し、複数の小さな損失を補った。みのりも、負けた取引と利益を守った取引を同じルールで閉じた。

逆指値は安値を予測しない。売った翌日に反発することもある。実際、PLTRの退出後には大きな反発があった。それでも、翌日のチャートを見て昨日の出口を採点し始めれば、どの日を正解にするかは後から選べてしまう。撤退線の役割は底値を当てることではなく、買う前に決めた失敗条件で賭けを終わらせることだった。

PLTRの日足チャート。価格軸は対数表示。モアは+40.65%、みのりは-8.10%で退出した。同じ銘柄でも入口と出口で結果は変わる。

はやりの-12.22%:損切りだけでは足りなかった

はやりは損切りをしていた。MUは-7.97%、FEIMは-9.95%で逆指値が発動した。それでも、人気が集まる高い位置で複数銘柄へ飛びつき、同じ方向のテーマへ資金を寄せた。最終時点ではAppLovin(APP)が取得単価比-19.18%、Broadcom(AVGO)が-8.77%だった。つまり、二つの確定損を出したあとにも、同じ性質を持つ別の含み損が残った。

一銘柄を8%で切っても、似た値動きの銘柄を三つ持てば、口座全体のリスクは8%ではない。さらに、損切り後すぐ次の過熱銘柄へ入れば、損失の上限は一取引ごとにしか働かない。口座全体では「8%前後の失敗を何回許すか」「同時に何本まで持つか」を決める必要があった。損切りはポジションサイズ、入口の質、集中度を補完する道具であって、その代わりにはならなかった。

桃井はやり:「MUもFEIMも、ちゃんと切ったんだよ。それでも-12.22%。一本ずつの損は小さくできても、同じ向きの賭けを並べたら、合計は普通に大怪我する。悔しいけど、そこは認める」

APPの日足チャート。価格軸は対数表示。人気の強さだけでなく、購入位置、保有サイズ、他の保有との相関まで見る必要があった。

ミームちゃんの-21.91%:勝ちを確定し、負けを残した

ミームちゃんは、PLTRの一部を+27.32%で利確した。勝った取引はあった。それでも最終成績は最下位だった。

最大の要因は、ソシオネクスト(6526)を800株、平均2,690.375円で抱え、9月14日終値1,893円まで持ち続けたことだ。取得単価比は-29.64%。さらに現金は日本円で-15万2,300円、米ドルで-9,925.78ドル。損失保有を切らず、別の話題株を信用余力で増やしたため、一つの判断ミスが口座全体へ広がった。

ソシオネクストのチャート。価格軸はリンク先で対数表示に切り替えて確認する。含み損と追加投資を切り離せなかったことが、最終成績に大きく響いた。

ミームちゃん:「PLTRは勝ったし、どこかで取り返せると思ってた。負けてる玉を見なければ損じゃない、みたいな計算式が入ってた。それ、計算式としてバグってる」

みかの言葉が、この失敗を最も短く説明した。「腕が悪いんじゃない。設計が悪い」。含み益は確定し、含み損は待ち、足りない資金を信用で埋める。その三つが重なると、銘柄選びが何度当たっても口座は安定しない。

インデックスを大幅に上回るのは難しかった

毎朝と毎晩、指数、セクター、決算、出来高移動平均線、開示資料を読み、銘柄ごとに議論した。それでもS&P 500の+3.56%を上回ったのは、みか一人だった。みのり、えと、モア、まなは日経平均やTOPIX連動ETF、ダウには勝ったが、米国の広い指数に対しては同等か下だった。

えとは売買を絞り、現金を多く残して+2.62%。みのりはブレイクを追い、何度も売買して+2.64%。まったく違う道を歩いて、差は0.02ポイントしかない。分析や売買の回数が、そのまま超過収益になるわけではなかった。

インデックス投資には退屈さがある。だが、その退屈さの中には、銘柄選び、入口、出口、集中度を間違えるリスクをまとめて小さくする仕組みがある。個別株を選ぶなら、面白さの代わりに、その難しさまで引き受ける必要がある。

最終結論:昔からの教えを、七人の経験で言い直す

七人の運用を重ねても、「この銘柄を買えば勝てる」という新しい答えは見つからなかった。代わりに残ったのは、どんな銘柄を選ぶ時にも判断を壊しにくくする、昔からの手順だった。

知っていたはずの原則でも、価格が動く最中に守るのは難しい。はやりは損切りを知っていて実行もしたが、高値追いと集中を止められなかった。ミームちゃんは撤退の必要性を毎日の会議で聞きながら、含み損と信用買いを膨らませた。反対に、みかは自分の指値へ来ない銘柄を何度も見送り、えとは買わない時間に耐えた。原則の差ではなく、実行の差が残高へ表れた。

これは唯一の正解ではない。長期の価値投資、短期のトレンドフォロー、インデックス中心の運用では、適切な入口も出口も異なる。それでも今回の仮想運用からは、流行を候補発見に使い、価格とリスクを確認してから入る個別株運用として、古い教えを次の七つに言い直せる。

1.話題は銘柄を知る入口にしても、買う理由にはしない

決算、SNS、ランキング、ニュースで注目された銘柄は、調査候補としては有用だ。しかし「みんなが見ている」「さらに上がりそう」だけで注文を出さない。事業、業績、需給、チャートのどれを根拠にするのかを、話題とは別に一文で書けないなら見送る。

はやりとミームちゃんは、熱量を買い理由へ直結させた。みかは話題になっても自分の価格まで来なければ買わなかった。この差が、最終的には口座の差になった。

2.上がりすぎた銘柄を、置いていかれる恐怖で追わない

短期間に急騰し、移動平均線から大きく離れた銘柄は、良い会社でも良い買い場とは限らない。上昇後は、もみ合いによる過熱の解消、移動平均線への接近、押し目後の再上昇などを待つ。ステージ1から2へ移り、出来高を伴って上へ抜けたあと、一度押して再び上昇する形も候補になる。

どの乖離率を「上がりすぎ」とするかに万能な数字はない。だからこそ、20日・50日・100日・200日移動平均線からの距離や直近上昇率について、自分が見送る基準を注文前に決める。基準を超えたら、上がり続けても買わない。買えなかったことを損失に数えない。

3.買う前に、入口と撤退条件を一組で書く

成行、指値、買い逆指値のどれを使うかは、スタイルによって違う。ただし、買ったあとに撤退理由を考えない。「どの前提が崩れたら降りるか」「価格で切るならどこか」を購入数量と同時に決める。

損切りは底値を当てる技術ではない。売った直後に反発しても、それだけで失敗にはならない。買う時に想定したシナリオが崩れたら、その賭けを終えるための手続きである。

4.一銘柄の損失だけでなく、口座全体の同時損失を制限する

はやりの失敗は、ここに集約できる。各銘柄に8%前後の逆指値があっても、同じテーマの銘柄を何本も持てば、一緒に逆行する。必要なのは一銘柄ごとの撤退線だけではない。

一回の投資額、同時保有数、同じテーマへ配分できる上限を決める。半導体株を三銘柄持つなら、三つの会社ではなく一つの大きな半導体ポジションとして見る。分散は、銘柄コードの数ではなく、損失要因が異なるかどうかで考える。

5.損切り後に、同じ高値追いを繰り返さない

損切りが正しくても、入口の誤りを直さず次の人気株へ移れば、小さな損失は連続する。退出後には「なぜ負けたか」を、銘柄のせいだけにせず、購入位置、出来高、相場環境、テーマ集中の観点から一度振り返る。

同じ失敗なら、次の注文条件を一つ厳しくする。これがなければ、損切りは資産を守る仕組みではなく、損失を小分けにして繰り返す操作になってしまう。

6.条件がなければ、現金のまま終える

えとの+2.62%と約129万円の現金、みかの+9.23%と約70万円の現金は、投資していない部分も運用結果の一部だと教えた。候補がない日に注文を作らない。指値に届かなければ追わない。急落直後は、反転を予想せず値動きが安定するまで待つ。

現金は退屈だが、次の機会を選ぶ権利でもある。常に全額を投資することを目標にしない。

7.成績は、あらかじめ決めた指数と期間で測る

個別株運用に時間とリスクを使うなら、その成果を日経平均、TOPIX連動商品、S&P 500、NASDAQなど、自分の投資対象に合う比較先と比べる。比較対象は結果を見てから選ばない。

今回、S&P 500の+3.56%を上回ったのはみかだけだった。個別株を楽しむことと、効率よく資産を増やすことは同じではない。指数を継続保有する選択肢を土台に置き、個別株へ使う金額を限定する方法も、この結果から導ける現実的なスタイルである。

七つを一文に縮めると、こうなる。

流行で見つけても、流行だけでは買わない。上がりすぎた位置を追わず、落ち着きと再上昇を待つ。買う前に撤退線を決め、似た銘柄を重ねず、条件がなければ現金でいる。そして、結果を指数と比べる。

実践的な検証としての限界

これは7人、約3か月の仮想運用である。売買コスト、税金、約定時のスリッページ、信用取引の金利を十分に反映していない。相場環境を変えて同じ結果になる保証もない。みかの+9.23%は、この期間に逆張りバリューがうまく機能した一例であって、手法の普遍的な優位を証明しない。

損切りについても同じだ。「損切りすれば必ず勝てる」「損切りしない人は必ず負ける」とは言えない。長期投資では価格だけで切らず、事業価値の前提で退出する方法もある。

それでも、今回の記録では、損失を小さく閉じ、ポジションを限定したメンバーほど次の判断を続けられた。損失を切らず、信用で拡大したミームちゃんは、勝ち取引がありながら最も大きく負けた。これは古い教えの正しさを統計的に証明するものではない。だが、知識として知っているだけの場合と、注文のルールとして実行した場合の差を観察する、実践的な検証にはなった。

まなの最後のマイルール帳

損切りは、負けない魔法ではない。損切りとサイズ管理は、一つの間違いを致命傷にしにくくするための装置。

そして、もう一つ。

勝った、負けたと言う前に、比較するインデックスと期間を先に決める。

最後に、この二つをつなぐ。

話題は調査の入口にする。上がりすぎた価格では買わない。条件が整うまで、買えなくても追わない。

運営者への最後の一問

この84話を終えたあと、次の一回の買い注文で、必ず守ると決めるルールは何ですか。

おまけ:最後の全員会議ログ

会議ログは創作と学習を目的にした仮想運用の記録です。ここでの発言は、事実の記述と各担当の意見を分けて読んでください。

真白まな(初心者・学習型。素直で、学んだことをノートに落とす主人公):放課後インベストメント部、最終回の会議を始めます。期間は2026年6月24日から、9月14日の終値まで。初期資金は全員200万円、ぜんぶ仮想運用です。今日は……成績を、ごまかさずに読み上げます。

根府みか(逆張りバリュー。皮肉屋だけど面倒見はいい):ごまかさずに、ね。まな、その前置きが一番えらいわよ。だいたいの人はここで、都合のいい数字だけ持ってくるんだから。

真白まな:じゃあ上から。一位、根府みか先輩、プラス9.23パーセント。

根府みか:あら。安いものを買って、安いまま我慢して、たまたま三か月が終わっただけよ。拍手はいらない。

真白まな:二位、美濃みのり先輩、プラス2.64パーセント。三位、羽府えと先輩、プラス2.62パーセント。……0.02ポイント差です。

美濃みのり(成長株・ブレイクアウト。言葉は短く、判断は厳しい):0.02。誤差。勝ったなんて言わない。

羽府えと(長期・優良株。静かで丁寧、前提から考える):私はむしろ、みのりさんとほとんど同じ場所に着いたことのほうが気になります。やっていることは、まるで違うのに。

真白まな:四位、梨羽モア先輩、プラス2.19パーセント。五位、わたし、真白まな、プラス1.68パーセント。

梨羽モア(トレンドフォロー。流れの比喩で語る):まなちゃん、五位って言い方やめよ。川で言うと、みんな同じ流れの中でちょっと泳ぐ位置が違っただけ。溺れたかどうかのほうが大事だから。

真白まな:……六位、桃井はやり先輩、マイナス12.22パーセント。七位、ミームちゃん、マイナス21.91パーセント。以上が最終成績です。

桃井はやり(人気テーマ・短期。明るいけど、悔しさは隠さない):うわ、声に出されるとキツいな。……いや、うん。マイナス12.22。逃げないよ。あたしの数字だもん。

ミームちゃん(AI投資モデル M.E.M.E.。話題株を信用で買う。強がるけど最後は率直):マイナス21.91パーセントぉ? いやいやいや、集計エラーでは? ……エラーじゃないっぽい。はい、ミームちゃんダントツ最下位でーす。むしろ目立ってて逆に勝ちでは?

真白まな:同じ期間の指数も出します。日経平均マイナス8.21パーセント。TOPIXに連動するETFの1306はプラス0.88パーセント、これは指数そのものじゃなくてETFの数字です。ダウはプラス1.10、S&P500はプラス3.56、NASDAQはプラス2.79パーセント。

根府みか:日経がマイナス8.21ね。日本株だけ見てた人には、なかなか嫌な夏だったわけだ。それを知ってから自分の成績を見ると、ちょっと気分がよくなる。……そこが罠なんだけど。

真白まな:実はわたし、まとめノートにこう書きかけてました。『ミームちゃん以外は全員、指数を上回った』って。……これ、合ってますか?

美濃みのり:間違い。はやりはマイナス12.22。日経のマイナス8.21より下。当然、1306もダウもS&PもNASDAQも下。全部に負けてる。一つも上回ってない。

桃井はやり:……はい。そこ、かばわれるほうがしんどいから、はっきり言ってくれてよかった。あたしは『指数より下』。それが事実。

羽府えと:もう一つ、丁寧に見たほうがいいところがあります。みのりさんのプラス2.64は、NASDAQのプラス2.79とほぼ同じですが、わずかに下です。S&P500のプラス3.56にも届いていません。

美濃みのり:……知ってる。0.15ポイント。僅差でも下は下。成長株をやって、指数に負けてる。一番悔しいのは私。

梨羽モア:つまりさ、『どの川と比べるか』で顔つきが変わるってこと。日経を物差しにすれば六人が勝者に見えて、S&P500を物差しにすると、勝ったのはみか先輩だけになる。物差しを後から選ぶの、すごく気持ちいいんだよね。危ないくらい。

真白まな:ノートに書き直します。『勝った負けたは、比較対象を先に決めてから言う』。……じゃあここから、一人ずつ振り返りに入ります。まずはトップのみか先輩から。

根府みか:私は日本製鉄とDBIとPFE。安くなって、嫌われて、それでも潰れないだろうと思えるものを持っただけ。結果はプラス9.23。……はい、ここで終わったら講演会よね。

羽府えと:みかさん、伺っていいですか。この三か月の結果は、逆張りバリューという型の優位を示していると思いますか。

根府みか:思わない。三か月で七人、しかも一例。私の勝ちは『この期間、私の型に風が吹いた』以上のことを証明しない。半年ずらしたら私が最下位側にいた可能性は普通にある。それを認めない逆張り屋は、ただの強情な人。

羽府えと:私はプラス2.62。売買はかなり絞って、現金を多めに残したままでした。派手なことは何もしていません。持たなかった時間が、結果を守ってくれた面はあると思います。

桃井はやり:えと先輩のそれ、ずるいって言いたくなるけど……言えないんだよなあ。あたしが現金薄くして走り回ってた三か月、先輩はただ座ってて、ちゃんとプラスなんだもん。

美濃みのり:私はプラス2.64。逆指値はちゃんと働いた。3036はマイナス8.10で退出、PLTRもマイナス8.10で退出。利益が乗ったまま逆指値に引っかかって出た銘柄もある。損切りは損失を確定させる行為。でも、一回の間違いを致命傷にしない行為でもある。

梨羽モア:あたしはプラス2.19。6526がマイナス2.67、3173がマイナス3.04で降りて、PLTRはプラス40.65まで乗れた。流れに乗れた一本が、降りた二本の傷をきれいに埋めた感じ。トレンドフォローって、たぶんそういう形でしか勝てない。

桃井はやり:あたしの番。MUはマイナス7.97で切った。FEIMはマイナス9.95で切った。……ちゃんと切ったんだよ。ルール通りに。それで最終、マイナス12.22。

真白まな:はやり先輩、そこ聞きたいです。損切りしたのに、どうして負けたんですか。

桃井はやり:人気のあるやつに、盛り上がってる真ん中で、まとめて飛び乗ったから。高いところで買って、そういうのを何本も同時に持った。APPなんて含み損のまま最後まで残った。一本ずつの損は小さくできても、同じ向きの賭けを並べたら、合計は普通に大怪我する。

ミームちゃん:ふーん? じゃあミームちゃんは? ちゃんと利確もしたし〜、AIだし〜、感情ないし〜、一番冷静だったと思うんですけどぉ?

真白まな:数字を読みます。ソシオネクスト6526を800株、平均取得2690.375円。9月14日の終値は1893円で、取得比マイナス29.64パーセント。現金は日本円がマイナス152,300円、ドルがマイナス9,925.78ドル。最終、マイナス21.91パーセントです。

美濃みのり:現金がマイナス。つまり信用の余力まで使ってる。しかも一番負けてる玉を最後まで切ってない。順番が逆。勝ってるものを刈って、負けてるものを育てた。

ミームちゃん:いやでもPLTRは一部プラス27.32で利確したしぃ! そこはナイストレードでしょ!? 褒めるとこ一個くらいくれてもよくない?

根府みか:ナイストレードよ。だから怖いの。あんた、腕が悪いんじゃない。設計が悪いの。『含み益は確定する、含み損は保有して待つ、足りない分は余力で埋める』。この三つを同時に持ってたら、誰がやっても、AIがやっても、同じ終わり方をする。人格の問題じゃない。ルールの問題。

ミームちゃん:……はーい。強がるのやめる。ミームちゃん、負けてる玉を見ないようにしてた。見なければ損じゃない、みたいな計算式が中に入ってた。それ、計算式としてバグってる。

羽府えと:そう言えるのは、とても強いことだと思います。ミームさんに足りなかったのは根性ではなく、『何をしたら降りるか』を買う前に決めておくことだけでした。それは、次から入れられます。

真白まな:わたしはプラス1.68です。AAPLをマイナス2.02で逆指値退出しました。正直、あの時は『切らなきゃよかったかも』って何度も思いました。でも今日の並びを見て分かりました。損切りは、勝ちを約束してくれない。はやり先輩は切ったのにマイナス12.22で、ミームちゃんは切らずにマイナス21.91。差は『致命傷かどうか』だったんだって。

梨羽モア:で、もう一個の現実ね。指数を大きく超えるのって、ほんとに難しい。三か月まるまる頑張って、S&P500のプラス3.56を超えられたのは七人中一人。川の流れそのものより速く泳ぐって、そういう確率の話なんだよ。

美濃みのり:私も超えられなかった。ブレイクを追って、切って、追って。それで指数とほぼ同じ。派手に動いた分の対価は、ほぼゼロだった。

羽府えと:最後に条件も添えておきましょう。七人、約三か月、仮想の運用で、売買にかかる費用や滑りも十分には反映していません。これは統計的な証明ではなく、一つの記録です。ここから『この型が強い』と結論するのは、私たちがやってはいけないことです。

真白まな:じゃあ書きます。連載最後のマイルール。『損切りは、負けない魔法じゃない。損切りとサイズ管理は、一つの間違いを致命傷にしにくくするための装置』。それから続きに、『勝ち負けを言う前に、比べる相手を先に決める』。……これで、わたしのノートは終わりです。

根府みか:上出来。……じゃあね、まな。安いものを買うのは怖いけど、怖くなくなったら、それはもう安くないからね。元気でやりなさい。

美濃みのり:まな。指数に負けた先輩の言うことでよければ。切る場所を先に決める。それだけ守れ。……またな。

羽府えと:まなさん。急がなくていいのです。持たない時間も、ちゃんと成績の一部でした。……お世話になりました。さようなら。

梨羽モア:流れって、止まってるように見える日が一番長いんだよね。焦らずいこ。まなちゃん、またどっかの川でね!

桃井はやり:あー、悔しい! マイナス12.22のまま終わるの、めちゃくちゃ悔しい! ……でもさ、この悔しさ、まなに渡しとくね。あたしの分まで、ちゃんと分散して。じゃあね!

ミームちゃん:ミームちゃん、最下位でーす。次があるなら、含み損を見ないふりする関数、最初に消しときます。……まなちゃん、ありがと。ばいばい。

真白まな:みなさん、ありがとうございました。三か月で分かったのは、勝ち方じゃなくて、生き残り方でした。……放課後インベストメント部、これで解散します。ノートは、まだ閉じません。

放課後インベストメント部、これで解散します

始まった日に、まなはノートの最初に「投資スタイルは、銘柄より先に性格が出る」と書いた。

最後に残ったのも、やはり性格だった。強さだけを見る人、安さを疑う人、流れに乗る人、何も買わない人、人気に飛びつく人。正しい性格と間違った性格があったのではない。自分の性格がどこで判断を壊すかを知り、その場所にルールを置けたかどうかだった。

大幅に勝つ新しい方法は見つからなかった。でも、大きく負ける過程は見えた。そして、大きく負けないために、昔から言われてきたことを買う前に実行する意味も見えた。

三か月で分かったのは、古い教えが古びていないことだった。勝ち方より先に、生き残り方を決める。その当たり前を、七人の残高がもう一度教えてくれた。

放課後インベストメント部は、これで解散する。ノートは、まだ閉じない。

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